『オトギ、どうしたの?』
自分の膝の上に乗せていた幼いゴッドチャイルド・アリョーシャは、眉間に皺が寄っているオトギの頬にぺちぺちと触れてきた。
その手を掴んで制止させ、抱き抱えながらそろそろ降りろと床に足が付くよう彼女を降ろすが、アリョーシャは納得していないのか、またしても膝上へとよじ登り、先程までの場所に再び座る。
そんな彼女の様子にオトギも諦めたのか、落ちないようにと今度は彼女の小脇を片手で抱えながら、机の方にもたれ掛かり、頬杖をつく。アリョーシャは投げ掛けた質問の答えを待っているのか、まじまじとオトギを見つめていた。
『いつまで見てんだよ、お前。何もねェって』
『でも、こーんな顔してるよ』
と、アリョーシャは自分の目を指で吊り上げて眉を寄せ、オトギの表情の真似をしてみせる。
『……なんだそりゃ』
呆れた表情でアリョーシャを見つめると、彼女は屈託のない笑顔をオトギに向けた。
いつからこの少女に絆されるようになってしまったのか。偶然このゴッドチャイルドと出会い、軍で保護する事になってからというもの、こうして暇のある時は観察対象といった意味も含めて一緒にいることが多い訳だが。くるくると表情を変え、純粋に自分を慕ってくれているのは、正直悪い気はしない。
『なぁアリョーシャ、今日何日か分かるか』
『にじゅー…はち?』
『正解。んじゃ、これなーんだ』
そう言って、机の上に並べてある二つの小袋を指差す。中にはやや大きめのカップケーキが並んでいた。片方の袋には水色の、もう片方には桃色のラッピングが施されている。
目を輝かせながらアリョーシャが桃色の小袋を手にとる。お前のじゃねェから開けるなよ、と彼女の頭を撫でながら制しつつ、オトギはもう片方の水色の小袋を手に取って、アリョーシャの方へ並べた。
『これ、誰かに渡すの?』
『あァそうだよ。けど、今更なァ……』
この二つを買う為に、寮へ帰宅しようとしていた朔太郎をひっ掴んで付き合わせた事を思い出す。
元々甘いものが然程得意ではないオトギには、どの洋菓子店が良いかなどと分かる筈がなかった。
故に朔太郎に付き添ってもらった訳だが、今になって朔太郎の呆れたような、はたまた同情を含んだような表情を思い出し、何とも複雑な気分になる。
もっと気の利いた物を選べば良かったのだが、そのような物を思い付ける筈もなく、今に至る訳だ。
『あっ分かった!オ』
『だーッ口に出すなッつの!』
慌ててアリョーシャの口元を手で塞ぐ。頭では分かっているものの、口に出されると物恥ずかしくなるらしい。
ややあってアリョーシャから手を放すと、アリョーシャはオトギの膝元から飛び降り、オトギの方へ向き直る。
『オトギ、今からわたしに行きましょ!』
『はァ?何でだよ』
『ゲヘナもオラクルも喜ぶわ、きっと』
『……だから口に出すなッてんのに……』
嘆きも虚しく、二つの小袋を抱えながらアリョーシャはオトギの手を引いて急かす。
オトギもようやく折れたのか、アリョーシャに引かれるままに重い腰をあげ、立ち上がる。
『しャあねェ、あいつらに投げ付けてやるか』
奇しくも同じ日に生を受けた二人へ、せめてもの親愛と祝いの印を。
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軍時代の過去話。
アリョーシャちゃん、お名前だけゲヘナさん、オラクルちゃんお借りしました。
ゲヘナさん、オラクルちゃんお誕生日おめでとうございました!!
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