※アロウの独白のみ。
過去?というか、アロウと兄しか出てません。
――俺には、6つ年の離れた兄がいた。
兄弟と言っても異母兄弟、父の後妻である俺の母親は故あって失踪。(と言うのも、血の繋がっていない兄の面倒まで見切れないという自分本意の理由からだったが)
結果、俺は父と兄との三人での暮らしだった。
幼い頃の俺は、母親が失踪したのは兄のせいだというのを理由に、兄と顔を合わせる事を避けていた。
しかし、兄はそんな俺にも何度も優しく接してくれていたように思う。俺が毛嫌いしていたというのにも関わらず。
何でそんなに俺に構うのかは、今となっては分からない。俺が理由も聞こうとはしなかったのもあるだろうが、兄貴なりに俺に気を使っていたのかもしれない、と思う。
『アロウ、待ちなさい。汚れた格好のままでは部屋が汚れます』
『うるせーよ、バカナル!お前の言う事なんか聞くか!』
毎度このようなやり取りは日常茶飯事だ。
俺の無作法な行動に、兄であるナルは俺を咎める。
『そう言う物言いは感心しませんね。お友達に嫌われてしまいますよ?』
『お前みてぇにかしこまったしゃべり方なんか出来ねぇし、したくもねぇ』
『そうですね。今の方がアロウらしい。ですがアロウ、世界は広いのです。将来の為に、教養は身に付けておかなければ』
6つも年が離れているせいなのか、当時はナルの物言いが説教にしか聞こえず、俺は無駄に反発していた。
子供には良くあること、子供に見られたくないからが故の反発心だけだ。
『そんなお前みたいな言葉なんか習いたくない』
我ながら子供じみた反論だった。
それでも、ナルは俺の頭をなでながら、
『気が向いた時で構いませんよ。一緒に覚えていきましょう。ゆっくりと、ね』
そう、優しく諭してくれた。
無骨で乱暴な俺とは対照的に、物腰も柔らかく誰に対しても優しい、温厚なナル。
誰にでも手を差し伸べようとして、損な役回りばかりしていたように思い出せる。
兄弟で何処が似ていたのかと聞かれても、俺の方が聞きたいぐらいだ。
「何でこうなっちまうかねぇ」
フィーダムデリアの西部に位置する、元アルヴァドール軍基地――現在『聖樹の革命団(ユグドラシル)』本部。
俺は今この組織に所属している。
忌々しい『レダ事件』なんてものにより、親父も、ナルも、今まで何の不自由も無く暮らしていた人間達が、あっという間に消えた。
十年前にそんな悲劇を起こしたにも関わらず、永久機関はまたそれを推進している。
「こういう時、アンタならなんて言うんだろうな」
無意味に煙草を吹かしながら、今は見ぬ兄を想う。
以前の自分なら考えようともしなかったことだ。俺らしくない、柄でもない。
けれど。
ナルが消えて、俺が残った意味を考える。
ただの偶然かもしれない。
けど、それだけじゃ辛すぎる。
「『誰かを護れるような人間になりなさい』……ってか」
いつからか、兄の口調を少しづつ真似するようになった。
元々敬語なんて使ったこともない俺にしちゃ、馬鹿の一つ覚え。
これだけで、兄の供養になると思ってはいないけれど。
『いつか、アロウと共に父の跡を継げたら良いですね』
『何で』
『アロウと一緒に街を回りたいだけですよ』
『ばっかじゃねーの、ブラコンかよ』
『はは、そうですね。……、少しだけでも覚えていてもらえると嬉しい。貴方はいつまでも、私の大切な家族だと』
何故、兄がそんな事を言ったのかは分からない。
それでも。
「俺でも、アンタみたいな人間になれますか」
困っている奴に、手を差し伸べられるような人間になれたら。
アンタの代わりに、この世界を生きていけたら。
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