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光の足音



※此方はそらさんの小説「泡沫花火-前編-」とリンクしております。








 ――単なる興味本位、という言葉が似合うかも知れない。

 十年以上の付き合いともなる腐れ縁の男の策略に、一枚噛んでやろうと思った。最近目立った活動もなく、身体が鈍っていた所だと、オトギはどこか高揚した様子で語る。その言葉を鼻で笑いつつ、腐れ縁の男――ゲヘナはいつも身に付けているマントを翻した。
 オトギは目の前にいる二人の女性を交互に見やる。片方は昔から馴染みのある女。もう片方は……同じ組織の少女だろうか。毅然として剣を向けながらも、どこか幼く、感情的な光を感じる。それを知ってか知らずか、ゲヘナは不敵な笑みを浮かべた。

「おいゲヘナ、オラクルの隣にいる女……知ってんのかよ」
「えぇ、一応」

 そりゃまた顔のお広いことで、と嫌味を投げかけるが、ゲヘナに軽く流される。毎度お馴染みの応酬である。
今回目的としているのは馴染みのある女――隣にいる男の片割れ、オラクルの方だ。かつての軍の同期でもあり、力を拮抗しあっていたかつての仲間。レダ事件以降消息が分からず会う事も無かったが、久々にこうして対峙すると、彼女は何処も変わっていないように思える。かつての彼女の強さを思い返し、興奮に身体を震わせた。久々に愉しくやれそうだ、と。

「さァて、向こうはやる気満々みてェだぜ。オラクルは任せてもらおうか」
「しくじったら笑ってあげますよ」
「抜かせ」

 言葉と同時にオトギは腰の鞘から剣を抜き、各々が一斉に駆け出した。一目散にオラクルの大剣目掛けて剣を振るう。激しい金属音とビリビリと身体に響く衝撃が、オトギを心地良くさせる。

「久しぶりじゃねェか、オラクル。馴染みの顔をわすれた訳じゃねェよなァ?」
「……何故貴方が此処にいるの。しかも、あの男に加担してるなんて」
「大切なオトモダチだから、とでも言えば満足か?」
「……冗談は止めて」
「はっ、十年経ってもテメェは相変わらずみてェだな!」

 剣を握る手に力を込め、オラクルの大剣を強引に弾く。体勢を揺らがせたオラクルの隙を突くかのように、オトギは素早く第二撃の剣を振るわせるが、オラクルは足を後ろに引き、寸での所でオトギの剣筋を見切って後退した。
 オトギの舌打ちを耳にしながら、オラクルは再び大剣をオトギの方へと向け、構える。

「貴方は随分と人相が悪くなったようね。……あぁ、それは元からだったかしら」
「けっ、十年経っても変わらねェお前等が”異常”なんだよ。……まァ、俺には関係のねェ事だがな」
「……軍にいたんじゃなかったの。どうして」
「さて、どうしてかねェ。お前に関係あンのかよ」
「アリョーシャを見捨てたとでも言うの?」

 “アリョーシャ”、という名前にオトギは硬直し、目を見開く。同時に脳裏に揺れ動く。在りし日の彼女の面影が焼きつく。あどけない表情で、声で、自分の名を呼んでいた少女の事を。
 先日、遺跡で一人の女に刃を向けた時以来、思い出さないようにと蓋をしていた感情がじわじわとオトギを覆い尽くしていく。あの時まで、彼女を想う事を捨てたというのに。
 ――どうして。今になって彼女の名を耳にするのか。
 オトギは唇を噛み、先程よりも光を鈍く、闇のように黒く尖らせる。それに呼応するかのように、空気がざわついた。オラクルは息を呑み、オトギを睨みつけた。

「……一番聞きたか無かったなァ、その名前はよ」
「答えなさい」
「テメェに答える義理が何処にある!」

 歪み淀んだ光を纏わせ、オトギは地を蹴って素早くオラクルの眼前へ。オラクルは大剣を縦に振り下ろすが、それを腕に付けていた鉄甲で受け止めて弾く。そして地面へ己の剣を突き刺し、大剣を握っていたオラクルの手首を掴み、本来曲がるべき方向とは逆方向へと力を込めて捻り、オラクルの自由を奪う。徐々に手の力が抜けていき、大剣がその場へ音を立てて落ちる。互いに丸腰となるが、この場は幾分かオトギに分が合った。

「…ッ、離しなさい!」
「この場でお前と決着つけてやっても良かったんだが、一応アイツの話に乗っかっただけなんでな」
「アイツの…?」
「ちィと寝てろや」

 ――瞬間、オラクルの身体に衝撃と共に鈍い痛みが走る。鳩尾に手加減の無い拳が入ったのだと気付いた時には、その場へと崩れ落ちた後だった。意識が朦朧とする。オトギはオラクルの元へしゃがみ込み、何とも言えない表情を浮かべた。謝罪と後悔を含んだような、寂しげな目へと変化する。オラクルが意識を掠めていく横で、オトギはぽつりと、聞こえるか聞こえないかといった小さい声で呟く。

「……見捨てたんじゃねェんだ、俺は」

 ――こんな落ちぶれた姿、アイツに見せる訳にゃいかねェだろ。
その言葉を聞く前にオラクルは意識を飛ばす。それを確認したオトギは、未だ交戦しているゲヘナと、金色の髪をした少女の方へと視線を向ける。此方に気づいた少女は、「オラクル!」と声を荒げていた。オトギも少女が此方に向けた怒りに気付いたものの、少女はゲヘナによって遮られる。何とも飄々とした男である。少女の剣撃を流れるように交わし、その表情は笑みを浮かべたままだ。
 ゲヘナも此方の戦闘が終わった事に気付いたのだ。そう時間をかけずに片はつくだろう。オトギは突き刺していた剣を鞘に納めてその場に座り、倒れているオラクルへと視線をやった。

「……お前も、お前の兄貴も……難儀なモンだなァ」

 聞こえている筈もない事を分かっていて、彼女に言葉をかける。
 十年も前の、まだお互いに軍服を纏い、競い合っていた頃を思い出しながら、オトギは見える筈もない空を仰いだ。






―――――――――――――――――

そらさんの小説「泡沫花火-前編-」のオトギ視点。
ゲヘナさん、オラクルちゃん、名前は出ておりませんが、ガーネットちゃん
お借りしました。





 
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