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Twitter交流企画「パンドラ」/うちの子総出学パロ企画の倉庫。

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咲く花の蕾




※本作品は、ZENさんの小説
洞-うつろ-
具-つぶさ-
の続きとなっています。










『夢見が悪かっただけだ』

 任務中そう口にしていた彼女の様子がいつもと違っていた事は、シルヴィスも気づいていた。どうしてそこで深く追及しなかったのか――否、追及した所で彼女に気圧されてしまえば、あの場では深く問う事が出来なかったのは事実だが。

(我ながら情けないな……)

 諜報本部から医務室へと続く廊下を足早に駆けながら、シルヴィスは眉間に手を当てる。どうして彼女の怪我までに気が付く事が出来なかったのかと。
 よくよく思えば不自然な事であった。普段の彼女ならば任務中でも、自分より優先して安全な場所へと先導し、あの赤く綺麗な鳥の姿を以て逃げ帰る事が出来た筈だ。しかし、今日はそれをしなかった。頼られていたのだろうか、と自惚れて密かに浮かれていた自分がとても浅ましく思う。
 ましてや、任務中ずっと傍にいた自分よりも先に、上司であるホヅミが彼女の異変に気づくとは。シルヴィスよりも幾分も女性の扱いが慣れているのもあるのだろうが――やはり、長年の功なのだろうか。シルヴィスに少々の悔しさが残る。

「…っと、今はそういう事を考えている場合じゃないな…」

 駆け足になりつつも、彼女が向かったであろう医務室へと急ぐ。彼女も元は救護班、医療技術は申し分もないだろうし、自分が足を運んだ所で何も出来ないかもしれない。
 それでも、シルヴィスは彼女の元へと向かわずにはいられなかった。

「ヴェラ君っ!」

 医務室に明かりが灯っている事を確認し、勢い良くドアを開けた。医療班の人間達が帰った後の沈黙に満ちた部屋の中には、案の定彼女――ヴェルヴェットが医療箱を棚から降ろしているところだった。ヴェルヴェットは予想だにしなかった訪問者に、目を丸くして驚いている。

「シルヴィス…?お前、何故此処に」
「ホヅミさんの言う通りだった。……怪我を、しているんだろう」

 駆けてきたことにより少々荒くなった息を整えながら、ヴェルヴェットの元へと歩み寄る。ヴェルヴェットは目を逸らしつつ、「あの男め、余計な事を……」と悪態をついた。その言葉は彼女の直接的上司であるホヅミに向けられたものだろう。

「任務の時に気付かなかった私もいけないが、何故教えてくれなかったんだい?知っていれば……」
「『任務になど行かせなかった』とでも言うつもりだろう。そういう気遣いは御免だ」
「……相変わらずだね君は。仲間として心配をするのは当然だと思うのだけれど」
「お前が心配性なだけだろう。もう外も暗いんだ、早く帰れ」

 そう言ってヴェルヴェットはシルヴィスを手で追い払おうとする。が、シルヴィスは立ち退こうとするどころか、ヴェルヴェットの右腕を優しく自分の方へと引いた。

「そういう訳にはいかないよ。……傷を見せてくれないか。君程器用では無いが……手当てくらい、させてほしい」

 普段ならば緊張で女性の手を引くだけで緊張してしまう男ではあったが、今宵ばかりは少々違う様子を見せている。
 渋っていたヴェルヴェットを半ば強引に長椅子へと座らせ、服の袖をゆっくりとめくって行く。
 彼女の白い右腕に広がる大きな傷痕を目にし、シルヴィスは眉をひそませた。深さこそ大した事はないものの、二の腕から手首にかけて裂かれた傷痕は、見ている此方からしても思わず声をあげたくなる程だった。
 この傷を抱えたままよく潜入任務などこなしたものだ、とシルヴィスは小言を口走りそうになったが、敢えて口にはしない。彼女が任務中えらく不機嫌だったのを思い出し、また突っぱねられる訳にもいかないと考えたからだ。
 なるべく彼女が痛みを感じないよう、傷口を消毒液の染み込ませたコットンで拭っていく。やはり傷口に染みるのか、ヴェルヴェットは時折眉間にシワを寄せながら痛みを我慢する。

「……何処で怪我をしたのか、聞いても良いだろうか」

 伺うように、そうシルヴィスは呟く。ヴェルヴェットは黙ったまま右腕をシルヴィスに預け、シルヴィスが自分の腕を手当てしていく様を見つめている。
 聞いてはいけなかったかな、とシルヴィスは苦笑した。彼女は諜報部の人間。矢継ぎ早にいつ、何処で、誰に、と聞いても、恐らくは答えてはくれないだろう。仕事柄、というのもあるが、彼女はそういう人柄だ。
 傷口にガーゼを当て、ゆる過ぎずきつ過ぎずの感覚で、丁寧に包帯を巻いて行く。
ワルキューレに所属した当初からよく医療班に世話になっていた(医療班の人間達の手際を見ていた)からか、シルヴィス本人の手際の良さもなかなかの物だった。

「……遺跡に行っていた」
「遺跡?」

 返ってくるとは思わなかったヴェルヴェットの返事に、シルヴィスは間の抜けたように彼女の言葉を繰り返した。
 このフィーダムデリアには何百年前かに滅びた王家の遺跡がある。シルヴィスも幾度も彼女と共に足を運んだ事があり、其処ではいつも遺跡に常駐している考古学者である彼女の兄――ユリシーズの熱弁を興味深く聞いては、本屋に足を運んで遺跡関係の本を読んでいた事は自身の記憶にも新しい。お陰で遺跡に関する知識を得られたというものだ。

「ユリシーズさんに会いに行っていたのかい?」
「いや、それもあるが、また別件だ」
「別件?」
「墓参りだ、父の」

 ヴェルヴェットの言葉に、シルヴィスは思わず口を噤んだ。彼女の過去に立ち入ってしまったのではないかと、次に続ける言葉を失い、包帯を巻く手が止まる。
 その様子にヴェルヴェットも気が付いたのか、あいている左手の指でコツン、とシルヴィスの頭を叩く。

「いらん気を回すな。もう十数年も昔の事だ」
「う……すまない。立ち入った話を聞くつもりでは無かったんだが……」
「何を今更。……シルヴィス」
「ん、何だい?」

 包帯を巻き終わり、これでよし、とヴェルヴェットの腕を放しつつ、ヴェルヴェットの問いに耳を傾ける。

「お前は、何故ワルキューレに入った」

 その問いに、シルヴィスは言葉を詰まらせた。
 ――十年前のレダ事件により、シルヴィスはかけがえの無い幼馴染を、友を失った。その悲しみの中で、唯一自分の傍にいてくれたのが、かつての親友だった。親友を兄のように慕い、同じく永久機関に大事な者を奪われた人間として、彼と共にこの世界の為に戦いたい。そう思ったものだ。
 しかし、シルヴィスが十八の年になった頃。親友に「共にワルキューレに入らないか」と誘ったものの、それを親友は断った。シルヴィスにはその事が理解出来ずに、今に至る。志を同じくしていたと思い込んでいた自分にも非はあるのかもしれない。けれど。

『ずっと一緒なんて、ある訳でもねぇだろ。今のまんまお前じゃ、一人で何も出来ない人間になっちまうぜ』

 親友の言葉が未だに耳に残っている。突き放された気がしたあの感覚。今思えば、子供の癇癪だったかもしれない。売り言葉に買い言葉、とでも言えば良いのだろうか。随分と彼に酷い言葉を投げかけてしまった。
 五年前のあの日以降、彼とは一度も会っていない。
 自分は彼への当て付けのように、自分一人でも結果を出したくて、ワルキューレへと入った。今、彼は何処で何をしているかは、自分が知る由もない。

「…シルヴィス?」

 俯いたまま沈黙状態だったシルヴィスを気にしたのか、ヴェルヴェットが顔を覗かせる。シルヴィスはハッと我に返りながら、自虐を含めた様子で苦く笑う。

「……動機は不純だよ。永久機関をこのままにしておけなかった、というのは勿論だが……私は……友に、認めて貰いたかっただけなんだ」

 隣に誰もいなくても、成果を出せるように。認めてもらえるように。
 それだけ言って、シルヴィスは誤魔化すように笑う。

「そういうヴェラ君は、どうしてワルキューレへ?」
「……先程の続きにもなるが、ひとりのゴッドチャイルドに会ってな」
「ゴッドチャイルド……」

 途端に、シルヴィスの表情がまたしてもやや暗くなった。
 それを知ってか知らずか、ヴェルヴェットは言葉の先を繋げる。

「父は落盤事故により死んだと思っていた。……だが、真相をそのゴッドチャイルドから聞かされ、私は今此処にいる」

 今こうしているのも、そいつのお陰という訳だ、とヴェルヴェットは語る。
 シルヴィス自身は、ゴッドチャイルドの事をあまり好いてはいなかった――否、あのレダ事件を引き起こした因果もあり、何処か苦手だ、といった印象の方が強いのだろう。ヒトと同じ形をしてはいるが、ヒトざらなる者。故に少々恐ろしさを感じているのが本音だ。

 だが、ヴェルヴェットは違う。少なくとも、自分のようにゴッドチャイルドに対して恐怖感を抱いたりしてはいない。

「……君は、本当に強いんだな」

シルヴィスは先程包帯を巻き終えた彼女の手を、再び取る。

「いや、強いというと語弊があるかもしれないが……。時折心配になってしまうんだ。諜報部員である以上、気軽に話すなんて事はあってはならない。それは分かっている。……だけど君は、君自身の事まで、黙してしまうだろう?」

 そう言いながらシルヴィスは立ち上がり、ヴェルヴェットの目の前へと移動した。彼女の手を取ったまま、片膝を付いて、彼女の目を真摯に見つめる。

「私では頼りにならないかもしれない。それでも私は、君にもっと頼って欲しいと思っている。同じ仲間として……」

 そう言い掛けて、あぁ違うな、こう言いたい訳じゃない、とシルヴィスは首を振る。シルヴィスが何を言わんとしているのか、ヴェルヴェットには理解し難かった。が、シルヴィスは少し頬を赤らめた後、咳払いをして再び彼女を見つめ、両手で彼女の手を握った。
 いつになく真剣な表情のシルヴィスに、ヴェルヴェットは黙ったままその目を見つめ返す。

「私に、貴女を護らせて欲しい。仲間としてではなく、同僚としてでもなく。…わ、私は君が――」

 その時であった。シルヴィスの言葉を遮るかのように医務室の扉が勢い良く開き、その音と共にシルヴィスはビクッと身体を震わせ、ヴェルヴェットの手を握っていた両手を素早く離し、逃げようとした――が、足を滑らせて椅子に頭を打ち付けた。何とも間抜けな光景である。

「ごめんなさいっ、私医務室の戸締りを忘れてて…!って、あれ?」

 医務室に入ってきたのは、ワルキューレの医療班の一人――ヴェロニカ・カルリーニだった。手にはこの医務室の物であろう鍵が握られており、大方戸締りにやってきたのだろう、とヴェルヴェットは倒れているシルヴィスを横目に、軽いため息をつく。

「丁度良かった。腕の手当てに、此処の備品を少し借りたぞ」
「あ、はい!……あの、シルヴィスちゃんは…大丈夫…?」
「放って置け、コイツに怪我は無い。……あぁ、此処の戸締りは私達がしておくから気にするな」

 ヴェルヴェットとヴェロニカ、二人のやり取りを耳に挟みながらシルヴィスはようやく起き上がり、二人に分からないように頭を抱えてゆっくりと、しかしこれ以上ない深いため息をついた。未だに心臓の高鳴りが収まらず、打ちつけた額がズキズキと痛む。

(あぁもう……何をやっているんだ私は……)

 また言えなかった……とシルヴィスは肩を落としながら、ヴェロニカと談笑しているヴェルヴェットの背中を見つめる。いつもこうなのだ。今まで何度か、彼女に思いを伝えようと試みたことはある。だが何の因果か、必ずこうして上手くいかず、失敗に終わるのだ。今までの失敗回数を指折り数えながら、再び大きなため息をつく。

(……しかし、これで良かったのかもしれない、な……)

 彼女に想いを伝えるには、まだまだ自分は成長不足なのだろう、と自分を省みて納得する。もっと、彼女に相応しい男にならなければ。

――いつか、堂々と彼女に伝えられるように。

 まだまだ、シルヴィスの苦難の道は続くようである。







―――――――――――

ヴェルヴェットさん、ヴェロニカちゃん、
あとお名前だけですが、ホヅミさん、ユリシーズさん
お借りいたしました!





 
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