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Twitter交流企画「パンドラ」/うちの子総出学パロ企画の倉庫。

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Au revoir―前編







 オトギの異変に気がついたのは、日が傾き始めていた夕方の事だった。
 直接的部下であるスプモニーとバイセン等を率いて、小隊長のオトギは街の巡回へと向かったはずだった。
 朔太郎とガラは別の任務があった為に同行はしていなかった――同行出来ていれば、もっと早くに気付けたかもしれない。

 任務から軍基地へと帰還した時には、既にそこにオトギの姿は無かった。
 スプモニーに事情を聞けば、報告書を自分に預けて先に帰ってしまったのだと言う。


 ――その時点で一つの違和感が生まれた。

 今まで任務後に部下を置いて先に帰る事が、あの男にはあっただろうか。人一倍後輩への面倒見のよいお人好しが。
 しかし、オトギが先に帰ってしまった以上、報告書をまとめて提出するのは、補佐役である朔太郎の仕事場である。スプモニーから報告書を受け取り、その場は解散とした。





 粗方報告書もまとめ終わった頃、ふとオトギの様子が気になった。
 軍に入って以来、長年付き合って来た相棒のような存在のあの男は、どうも自分を犠牲にするような節がある。
 どう見ても善人とは思えない悪態っぷりとぶっきらぼうな口調ながらに、他人の悩みをさも自分の事のように背負い込み、一緒に悩むような男だった。
 朔太郎もそんなオトギの人柄に救われ、今こうして軍人としての毎日を送れている訳だが。

 あの男のお人好しの成れの果てが、オトギが監視役を務めている軍が抱えるゴッドチャイルドの一人――アリョーシャの件である。
 オトギほどでは無いにせよ、朔太郎もオトギに連れられて何度もあの幼いアリョーシャとは顔を合わせている。が、オトギとアリョーシャは、まるで親子のような、はたまた年の離れた兄妹のような二人だ。
 朔太郎もそれなりにアリョーシャの事は可愛く思ってはいるが、オトギのそれはまた別物のように見受けられる。
 監視役としての責務故か、それとも――。

「……オイラが考えても仕方の無い事じゃの」

 誰に言うでもなく自分に呟いた後、自分も帰宅するべく軍本部を出る。
 と、門の前に見慣れた人物――オトギの姿があった。
 そろそろ日も沈み、空も赤から黒に染まり始めているという時間帯。帰路に着く人間こそいるものの、本部の方に出向く人間は少ない。にも関わらず、オトギは少々俯きながら此方の方へと向かって来ている。
 先に帰った筈では、と不思議に思った朔太郎は、オトギの元へと駆け寄った。

「オトギ、何かあったんか?こんな時間に」

 朔太郎が声を掛けると、オトギの足がピタリと止まる。

「……朔か」

 オトギはゆっくりと顔を上げ、朔太郎の方へと視線を向けた。
 だが、その視線が朔太郎の視線と噛み合わない。それだけでなく――目の焦点すらも、合っていなかった。
 いつも着用していた眼鏡も掛けておらず、朝に見た時よりも大分憔悴したように見えるオトギに、朔太郎はある合点がいった。

「お前……異能、使ったんか……?」

 朔太郎の問いに、オトギは何も答えない。ただ噛み合わない視線を此方に向けたまま、黙っている。
 その様子を肯定ととった朔太郎は、途端に声を荒げ出した。

「使えば自分の状態が悪くなるのは分かっとったじゃろ!どうして使ったんじゃ!」

 朔太郎が把握している限りでは、オトギの異能は他人の怪我の出血を止め、傷口を塞ぐという物である。しかし、その対価として、異能を使う毎に使用者の視力を蝕んでいく――つまり、オトギは異能を使う毎に視力を失っているのである。
 朝の様子に比べて明らかに目の焦点が合っていない今の様子を見るに、巡回途中に誰かに異能を使ったとしか思えない。

 朔太郎の声にオトギは眉を潜め、ようやくゆっくりと口を開く。

「俺が異能を使おうが、お前に関係あンのかよ」
「その目でこれからどうするつもりじゃ」
「関係ねェつったろうが」
「関係ないことがあるか!お前は、」
「くどい!!」

 オトギは咆哮し、腰に提げていた剣鞘から剣を抜き、朔太郎の首元へと向ける。

「心配してくれって誰が頼んだ、余計な世話焼いてンじゃねェよ!」

 朔太郎は動きを止め、戸惑いの表情をオトギに向けた。
 ――以前、オトギの代わりに様子を見に行った時分に、アリョーシャに教えて貰った事がある。
 光にも色がある。人間は見えない部分で、何かしら光を放っているのだと。目には見えなくても、感じることが出来るのだと。
漠然とした言葉に、その時の朔太郎には理解しかねる言葉達だった。

 だが、今なら分かる。
 今オトギが纏っている光は、普段光を意識したことがない朔太郎でも感じることが出来る――暗く、淀んだ闇の光だ。

「なァ、教えてやろうか。お前、目障りなんだよ」

 オトギはゆっくり口角を上げ、弧を描く。
 背筋が凍るような、酷く、不気味な笑みを。

「俺を親友とでも思ってたか?信用でもしてたか?ならお笑い草だ。俺は微塵にもお前の事を好いちゃいねェ」

 途端にまた険しい表情となり、黒い闇がオトギの周りを取り巻く。

「うぜェんだよ……お前の存在が、頭ン中でゴチャゴチャしてやがる。テメェは邪魔なんだ、朔!!」

 言葉と共にオトギと朔太郎の視線がかち合うと同時に、朔太郎の首元に向けられていた剣先が目の前で振るわれた。
 朔太郎は咄嗟に片足を後ろに引き、オトギの剣筋から身体を逸らす。

「アリョーシャを連れ出して永久機関への手土産にしてやろうかと思ったが、それも止めだ」

 オトギは二、三歩足を後ろへと滑らせると、再び剣先を朔太郎の方へと向ける。

「剣を抜け」
「……………」
「テメェの首で我慢してやるんだ、ありがたく思え」
「……本気、なんか」

 沈黙を守っていた朔太郎が、確かめるようにオトギに言葉を紡ぐ。
 朔太郎の言葉に、オトギはクク、とかみ殺したように笑う。朔太郎の言葉を馬鹿にしたかのような態度で。

「昔に俺は言ったんだよなァ、『お前に嘘は付かねェ』ってよ。親友名乗るぐらいなら、その言葉信じとけよ。冥土までな」
「……そうか」

 朔太郎は目を閉じ、腰元に提げていた二本の剣を両手に取った。
 この男は、既に自分の知っている『楠宮オトギ』という男ではない。

 過去にこの男が朔太郎に向けた言葉を信じるならば、今こうしてオトギからの言葉も全て真実なのだろう。

 ――最初から、この男を友と思っていたのは、自分だけだったのだ。

 そう納得してしまうと、今までの自分が酷く滑稽に感じる。今までのオトギと共に行動してきた過去は、全て喜劇。自分はオトギの手の上で踊り続けていた道化に過ぎなかったのだと。
 そう思わざるを得なかった。

 朔太郎から、自嘲の笑いがこぼれる。

「……お前の事は、無二の友だと思っていた」

 朔太郎は閉じていた目を開き、オトギの姿を見据える。先ほどとは違う、敵意に満ちた目で。
 それを感じ取ったオトギは、喉を鳴らして笑う。

「ククク、良い感じになってきたじゃねェか。そのまま殺すのは俺だって面白くねェ。……終わりにしようぜ、朔」
「……あぁ」






――――――――――――――

後編に続きます。
ガラさん、スプモニーさん、バイセンさん、アリョーシャちゃん
お名前だけお借りしました。


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