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Twitter交流企画「パンドラ」/うちの子総出学パロ企画の倉庫。

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Au revoir―後編






 ――酷く、酷く長い夢を見ていた気がする。
 これを走馬灯と言うには、余りにも滑稽で惨たらしいものだ。
 自分が歩んできた記憶のイメージが、男の手にによって紅く、黒く、焼き付くされていく。
 足元には自分が知り得る者達の無惨な死骸。周りに見えるは暗い暗い闇。
 屍を越えた先に、男は笑っている。
 男が掴んでいる手の先には、一人の少女の姿。
 男が少女に刃を向ける。先程まで自分が目にしていた、酷く歪んだ表情で此方を見て笑う。

 "―――――"

 男は何か言葉を告げた瞬間、目の前が鮮血に染まった。












「――ッ!!」

 悪夢から逃げるように目を醒ますと、そこは白い景色の中だった。
 朔太郎は荒い息を整えながら、辺りをゆっくりと見回す。見覚えのある景色は、どうやら軍本部にある医務室のようだ。
 息を吐くと同時に胸の痛みに気が付き、手を当てる。胸元には丁寧に包帯が巻かれており、完全に身体を貫いていたはずの傷口も然程大事が無く、完全とはいかないがほぼ治癒されたいる、というのが自分でも理解が出来た。

「生きて、る……のか……?」

 あの時、自分は確実に死を確信した。
 徐々に力が抜けていく感覚、ゆっくりと意識が遠退いていくあの感覚。
 だが、自分は確かに生きている。

 "――朔ッ!!"

 遠退いていく意識の中で見えた、オトギの焦りの表情と、最後に聞こえた彼の声。

 まさか、自分に異能を使ったとでもいうのだろうか。
そう考えれば、今自分が生きている事にも納得がいってしまう。……それでなけば、自分はとうに死んでいただろう。

(私を殺そうとしていたのは、お前だろうに……)

 何故、また自分を生かしたのか。オトギの行動には謎が深まるばかりだ。
 ――漸く落ち着きを取り戻した所で、朔太郎は隣に見える二人の存在に気が付いた。

「……?お前達は……」
「良かった、落ち着かれたようですね」

 淡い水色の髪をした青年が、安堵の表情を浮かべて胸を撫で下ろす。隣には、紅い髪をした大柄な男。青年よりは無愛想ながらに似たような表情を浮かべる。

「丁度医療班の方がおられなかったので、僕達の方で軽く手当てだけさせていただきました。痛むところはありますか?」
「……私は――」

 朔太郎はハッと我に返り、青年に二の句を告げるのを止めた。
 彼等二人には見覚えがある。恐らくは同じ戦闘班の者だろう。

「……オイラは、大丈夫じゃ。ありがとう。二人にはご迷惑をかけてしまったようじゃの」

 ややあって、朔太郎は取って付けたような苦笑を浮かべながら、座ったままの態勢から頭を下げた。

「……正直、発見した時には驚きました。傷口と出血の具合から、もう手遅れかと」

 赤髪の男は、渋りながら言葉を口にする。その続きは無い。黙ったまま、朔太郎の言葉を待っている。
 朔太郎は困ったように笑い、その場を濁そうとする――が、そうもいかないようだ。
 朔太郎は軽く溜め息をついた。

「はは、まぁの、オイラも死んだかと思ったもんじゃし」
「でも、軍本部内でこんな…。一体誰が……」
「……誰じゃろうなぁ」
「誤魔化さないでください!辺りには戦闘の痕跡も、貴方が倒れていた横には血のついた剣も――」
「覚えてないんじゃよ、何も。すまんの」

 眉尻を下げて笑ったまま、そう朔太郎は答えた。
 目の前にいる二人には――自分自身ですら無理がある虚言だと分かる。あまりにも滑稽な嘘だ。
 故に、朔太郎は笑う。これ以上聞いてくれるな、とでも言うかのように。
 それを察したのか、二人は共に押し黙るしかない。

 暫しの沈黙が流れた。
 朔太郎はゆっくりとベッドから降り、二人の前へと立つ。彼等と朔太郎の視線は交わっていない。

「お二方、本当に迷惑かけてすまんかったな。もう遅い時間じゃ、オイラの事は気にせずに、帰った方がよい。明日、改めてお礼に……」

 上着を羽織り、矢次早に言葉を繰り出しながら、そのまま医務室を後にしようとする朔太郎を、赤髪の男がその腕を引く。男が身に付けている黒い手袋から、微かに血の匂いがする。恐らく、朔太郎を此処まで抱えて来たのはこの男なのだろう。

「本当に、貴方は何も告げない気なんですか」
「…………」
「この件が何かの事件に繋がる可能性だってあるんです!下官である自分達には言わなくても結構、ですが」
「うちの隊長に報告でもすればえぇんかの?」

 男の言葉を遮るように、自嘲気味に言葉を吐いた朔太郎は、ゆっくり男へと視線を向けた。先程よりも余程冷めた目付きで男を見る。

「お生憎様じゃなぁ、うちの隊長は二度と此処には戻らんのじゃ」
「それは、どういう……」

 男の問いに、朔太郎は答えない。代わりに、歪な笑みを浮かべる。冷めきった目はそのままに。それが答えだとでも言うかのように。
 後ろで沈黙を続けていた青年は、一つの仮定に辿り着いたらしい。ハッとした表情を浮かべ、朔太郎を見やる。それに朔太郎も気付きはしたが、敢えて見ないフリをした。

「……そろそろ離してくれんかの?アンタの力は、怪我人のオイラにゃ少々堪える」

 冷めた目付きはいつの間にか普段の表情へと変わり、朔太郎はまた苦笑を浮かべる。
 男は言われるがままに朔太郎から手を離す、と、朔太郎は不意に明るい表情へと変わった。
 まるで先程の出来事が全て無かった事のように。

「本当にお二方には世話になったの。さっきも言うたが、また改めてお礼をさせてほしいもんじゃ。んじゃ、夜道は気を付けて帰るんじゃぞ?」

 そう言って、足早に朔太郎は医務室を出て行った。
 自分を助けてくれた二人には申し訳無いことをしたかもしれない。しかし、それを気遣う余裕など、朔太郎には微塵も無かった。

 だから、逃げた。何もかもに蓋をして。





 朔太郎の足は軍本部ではなく、軍が保持しているゴッドチャイルドの拘置所――地下牢の方へと向いていた。
 夢でみた少女。あれは明らかにこの地下牢の先にいる少女の姿だった。
 夢がずっと頭の中でこびり付いている。胸騒ぎと共に、何かの暗示では無いかと勘繰ってしまう。

『アリョーシャを連れ出して永久機関への手土産にしてやろうかと思ったが、それも止めだ』

 数刻前の、オトギの言葉が脳裏を過ぎる。
 オトギは、アリョーシャが永久機関に出向く事を極端なまでに嫌っていた。それは朔太郎も度々耳にした事がある。恐らくアリョーシャが永久機関から此方に逃げてきた事が関係しているのだろうが、オトギのそれはまるで過保護ともいえた。
 であるにも関わらず、オトギはアリョーシャを永久機関へと連れて行こうとした。それも手土産と称して、だ。

 逸る気持ちと、じわじわ痛む胸の傷を手で抑えながら、階段を降りて地下牢へ。
 薄暗い地下牢の中で、軍によって普段は保護や実験に使われているゴッドチャイルド達も、今は静かな眠りについているようだ。
 朔太郎は薄暗い地下牢の廊下を、壁伝いに歩きながらアリョーシャの眠っているであろう場所へと向かう。
 オトギに連れられ、何度も足を運んだことのある場所には、アリョーシャが気持ち良さそうに寝息を立てて眠っていた。どうやら、自分が気を失ってからも、オトギは此処を訪れなかったらしい。
 安堵の溜息をついた朔太郎は、壁を背に滑りながら、その場に座り込んだ。

「……何をやっているんだか……私は……」

 オトギの一挙一動に振り回されている気がして、ふと自虐を込めて笑う。
 オトギに、アリョーシャを永久機関へと連れて行く事など出来るはずもないのだ。それは長年共に付き合って来た自分が良く知っている。

 ――そう、自分がよく、知っている筈なのだ。

『仮面付けてばっかで疲れねェのか?お前』

 昔、一度だけオトギにそう言われた事がある。
 家柄が嫌いで。両親が嫌いで。自分が嫌いで。
その一心で隠し続けた本心。
 それを昔からの癖だと思えば、自分では然程気にした事は無かった。仮面だと気付かれなければ、それは仮面では無い。自分自身だ。

 だが、初めてオトギに見抜かれた時には、自分の時間が止まった気がした。
 今まで付け続けていた仮面が、いとも簡単に剥がれてしまう事を恐れてしまった。

『疲れる以前に、仮面の付け方を教えて欲しいもんじゃがの』

 そう返してからは、オトギからは何も聞いては来なかった。
――だから、自分も知らない振りをした。

 けれど。

「仮面の外し方、教えてくれんもんじゃろうか……」

 小さく、声が漏れる。
 偽り続けた心。仮面を外してしまえば、今までの自分すら存在しなくなってしまうような気がして。それが怖くて、更に偽り続けて仮面を付ける。
 そうし続けた今では、もう仮面の外し方すらも分からなくなってしまった。
 どれが本心か。どれが偽りか。

「……はは、自業自得じゃな……。私、の……」

 胡坐をかき、顔を下へと向ける。
 零れ落ちるのは、仮面を外し忘れた後悔の涙か、それとも失った友情への自責か――









――――――――――――――
オトギと朔太郎の過去編、これにて終了。
名前は出ておりませんでしたが、クリスさん、フラッツさん
そしてアリョーシャちゃんお借りしました。


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