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企画用倉庫

Twitter交流企画「パンドラ」/うちの子総出学パロ企画の倉庫。

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ダディ





「僕の事はダディと呼ぶとが良いさ」
「この仕事は、過去の僕への贖罪でもある。今や生き甲斐だけれどね」

名前:ダディ(Daddy)
性別:男
年齢:40
身長:186cm
所属:一般人/「伝言屋」
一人称:僕
二人称:君

【備考】
異能を使い、言葉を届けることを生業としている浮浪者。
愛称としてダディと名乗っているが、本名は不明。本人は名乗りたがらない。
三年前に妻を亡くしており、とある人物に妻からの伝言を渡す為に探している。
髪を一部染めているのは、妻の事を忘れないようにする為。
ゴッドチャイルドに関しても、特別な情を持っているようである。


異能:DEAR YOU
人の言葉を結晶化させ、他の人間に渡して声を再生し、伝えることが出来る。
効果発動には、言葉の手前に「伝えて」と言われなければ効果は発動せず、ダディが言葉を聞き取れなければ、結晶化する事は出来ない。
効果は一度きりで、再生してしまえば結晶は消える。
再生するには、手渡した人間の同意が必要となる。
結晶の大きさは伝える言葉の長さに比例するが、最大8~10cm。
色は言葉の感情によって代わり、大まかには
黄:喜び、嬉しさ
赤:怒り、憎しみ
青:哀しみ
緑:疑問、問いかけ
紫:心配
白:最期の言葉
黒:無感情
となっている。
色が濃いほど言葉に込められた感情が強い証。




 
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Au revoir―後編






 ――酷く、酷く長い夢を見ていた気がする。
 これを走馬灯と言うには、余りにも滑稽で惨たらしいものだ。
 自分が歩んできた記憶のイメージが、男の手にによって紅く、黒く、焼き付くされていく。
 足元には自分が知り得る者達の無惨な死骸。周りに見えるは暗い暗い闇。
 屍を越えた先に、男は笑っている。
 男が掴んでいる手の先には、一人の少女の姿。
 男が少女に刃を向ける。先程まで自分が目にしていた、酷く歪んだ表情で此方を見て笑う。

 "―――――"

 男は何か言葉を告げた瞬間、目の前が鮮血に染まった。












「――ッ!!」

 悪夢から逃げるように目を醒ますと、そこは白い景色の中だった。
 朔太郎は荒い息を整えながら、辺りをゆっくりと見回す。見覚えのある景色は、どうやら軍本部にある医務室のようだ。
 息を吐くと同時に胸の痛みに気が付き、手を当てる。胸元には丁寧に包帯が巻かれており、完全に身体を貫いていたはずの傷口も然程大事が無く、完全とはいかないがほぼ治癒されたいる、というのが自分でも理解が出来た。

「生きて、る……のか……?」

 あの時、自分は確実に死を確信した。
 徐々に力が抜けていく感覚、ゆっくりと意識が遠退いていくあの感覚。
 だが、自分は確かに生きている。

 "――朔ッ!!"

 遠退いていく意識の中で見えた、オトギの焦りの表情と、最後に聞こえた彼の声。

 まさか、自分に異能を使ったとでもいうのだろうか。
そう考えれば、今自分が生きている事にも納得がいってしまう。……それでなけば、自分はとうに死んでいただろう。

(私を殺そうとしていたのは、お前だろうに……)

 何故、また自分を生かしたのか。オトギの行動には謎が深まるばかりだ。
 ――漸く落ち着きを取り戻した所で、朔太郎は隣に見える二人の存在に気が付いた。

「……?お前達は……」
「良かった、落ち着かれたようですね」

 淡い水色の髪をした青年が、安堵の表情を浮かべて胸を撫で下ろす。隣には、紅い髪をした大柄な男。青年よりは無愛想ながらに似たような表情を浮かべる。

「丁度医療班の方がおられなかったので、僕達の方で軽く手当てだけさせていただきました。痛むところはありますか?」
「……私は――」

 朔太郎はハッと我に返り、青年に二の句を告げるのを止めた。
 彼等二人には見覚えがある。恐らくは同じ戦闘班の者だろう。

「……オイラは、大丈夫じゃ。ありがとう。二人にはご迷惑をかけてしまったようじゃの」

 ややあって、朔太郎は取って付けたような苦笑を浮かべながら、座ったままの態勢から頭を下げた。

「……正直、発見した時には驚きました。傷口と出血の具合から、もう手遅れかと」

 赤髪の男は、渋りながら言葉を口にする。その続きは無い。黙ったまま、朔太郎の言葉を待っている。
 朔太郎は困ったように笑い、その場を濁そうとする――が、そうもいかないようだ。
 朔太郎は軽く溜め息をついた。

「はは、まぁの、オイラも死んだかと思ったもんじゃし」
「でも、軍本部内でこんな…。一体誰が……」
「……誰じゃろうなぁ」
「誤魔化さないでください!辺りには戦闘の痕跡も、貴方が倒れていた横には血のついた剣も――」
「覚えてないんじゃよ、何も。すまんの」

 眉尻を下げて笑ったまま、そう朔太郎は答えた。
 目の前にいる二人には――自分自身ですら無理がある虚言だと分かる。あまりにも滑稽な嘘だ。
 故に、朔太郎は笑う。これ以上聞いてくれるな、とでも言うかのように。
 それを察したのか、二人は共に押し黙るしかない。

 暫しの沈黙が流れた。
 朔太郎はゆっくりとベッドから降り、二人の前へと立つ。彼等と朔太郎の視線は交わっていない。

「お二方、本当に迷惑かけてすまんかったな。もう遅い時間じゃ、オイラの事は気にせずに、帰った方がよい。明日、改めてお礼に……」

 上着を羽織り、矢次早に言葉を繰り出しながら、そのまま医務室を後にしようとする朔太郎を、赤髪の男がその腕を引く。男が身に付けている黒い手袋から、微かに血の匂いがする。恐らく、朔太郎を此処まで抱えて来たのはこの男なのだろう。

「本当に、貴方は何も告げない気なんですか」
「…………」
「この件が何かの事件に繋がる可能性だってあるんです!下官である自分達には言わなくても結構、ですが」
「うちの隊長に報告でもすればえぇんかの?」

 男の言葉を遮るように、自嘲気味に言葉を吐いた朔太郎は、ゆっくり男へと視線を向けた。先程よりも余程冷めた目付きで男を見る。

「お生憎様じゃなぁ、うちの隊長は二度と此処には戻らんのじゃ」
「それは、どういう……」

 男の問いに、朔太郎は答えない。代わりに、歪な笑みを浮かべる。冷めきった目はそのままに。それが答えだとでも言うかのように。
 後ろで沈黙を続けていた青年は、一つの仮定に辿り着いたらしい。ハッとした表情を浮かべ、朔太郎を見やる。それに朔太郎も気付きはしたが、敢えて見ないフリをした。

「……そろそろ離してくれんかの?アンタの力は、怪我人のオイラにゃ少々堪える」

 冷めた目付きはいつの間にか普段の表情へと変わり、朔太郎はまた苦笑を浮かべる。
 男は言われるがままに朔太郎から手を離す、と、朔太郎は不意に明るい表情へと変わった。
 まるで先程の出来事が全て無かった事のように。

「本当にお二方には世話になったの。さっきも言うたが、また改めてお礼をさせてほしいもんじゃ。んじゃ、夜道は気を付けて帰るんじゃぞ?」

 そう言って、足早に朔太郎は医務室を出て行った。
 自分を助けてくれた二人には申し訳無いことをしたかもしれない。しかし、それを気遣う余裕など、朔太郎には微塵も無かった。

 だから、逃げた。何もかもに蓋をして。





 朔太郎の足は軍本部ではなく、軍が保持しているゴッドチャイルドの拘置所――地下牢の方へと向いていた。
 夢でみた少女。あれは明らかにこの地下牢の先にいる少女の姿だった。
 夢がずっと頭の中でこびり付いている。胸騒ぎと共に、何かの暗示では無いかと勘繰ってしまう。

『アリョーシャを連れ出して永久機関への手土産にしてやろうかと思ったが、それも止めだ』

 数刻前の、オトギの言葉が脳裏を過ぎる。
 オトギは、アリョーシャが永久機関に出向く事を極端なまでに嫌っていた。それは朔太郎も度々耳にした事がある。恐らくアリョーシャが永久機関から此方に逃げてきた事が関係しているのだろうが、オトギのそれはまるで過保護ともいえた。
 であるにも関わらず、オトギはアリョーシャを永久機関へと連れて行こうとした。それも手土産と称して、だ。

 逸る気持ちと、じわじわ痛む胸の傷を手で抑えながら、階段を降りて地下牢へ。
 薄暗い地下牢の中で、軍によって普段は保護や実験に使われているゴッドチャイルド達も、今は静かな眠りについているようだ。
 朔太郎は薄暗い地下牢の廊下を、壁伝いに歩きながらアリョーシャの眠っているであろう場所へと向かう。
 オトギに連れられ、何度も足を運んだことのある場所には、アリョーシャが気持ち良さそうに寝息を立てて眠っていた。どうやら、自分が気を失ってからも、オトギは此処を訪れなかったらしい。
 安堵の溜息をついた朔太郎は、壁を背に滑りながら、その場に座り込んだ。

「……何をやっているんだか……私は……」

 オトギの一挙一動に振り回されている気がして、ふと自虐を込めて笑う。
 オトギに、アリョーシャを永久機関へと連れて行く事など出来るはずもないのだ。それは長年共に付き合って来た自分が良く知っている。

 ――そう、自分がよく、知っている筈なのだ。

『仮面付けてばっかで疲れねェのか?お前』

 昔、一度だけオトギにそう言われた事がある。
 家柄が嫌いで。両親が嫌いで。自分が嫌いで。
その一心で隠し続けた本心。
 それを昔からの癖だと思えば、自分では然程気にした事は無かった。仮面だと気付かれなければ、それは仮面では無い。自分自身だ。

 だが、初めてオトギに見抜かれた時には、自分の時間が止まった気がした。
 今まで付け続けていた仮面が、いとも簡単に剥がれてしまう事を恐れてしまった。

『疲れる以前に、仮面の付け方を教えて欲しいもんじゃがの』

 そう返してからは、オトギからは何も聞いては来なかった。
――だから、自分も知らない振りをした。

 けれど。

「仮面の外し方、教えてくれんもんじゃろうか……」

 小さく、声が漏れる。
 偽り続けた心。仮面を外してしまえば、今までの自分すら存在しなくなってしまうような気がして。それが怖くて、更に偽り続けて仮面を付ける。
 そうし続けた今では、もう仮面の外し方すらも分からなくなってしまった。
 どれが本心か。どれが偽りか。

「……はは、自業自得じゃな……。私、の……」

 胡坐をかき、顔を下へと向ける。
 零れ落ちるのは、仮面を外し忘れた後悔の涙か、それとも失った友情への自責か――









――――――――――――――
オトギと朔太郎の過去編、これにて終了。
名前は出ておりませんでしたが、クリスさん、フラッツさん
そしてアリョーシャちゃんお借りしました。


au revoirー中編










—— 一閃。オトギの剣が空を切り裂く。
 確かに捉えたと思っていた朔太郎の身体は、既にオトギの目線よりも下で構えていた。

 下からの気配を感じ取ったオトギは右足を後ろに下げ後退し、同時に朔太郎の剣筋がオトギの目の前を通り過ぎる。
 
「甘いな朔!殺る時はもっと踏み込めっつたろうが!」

 オトギの声は至極楽しそうに、だがその声とは裏腹に剣筋は容赦が無かった。
 それとは逆に、朔太郎の剣筋にはまだ躊躇いと迷いがある。

(……ッ、やれるものなら、とっくにそうしている……!)

 未だに脳裏にチラつく普段のオトギの姿が、自分の剣先を鈍らせている。
 頭では違うと割り切ろうとしていても、本心がそれを拒否している。
 朔太郎はチ、と舌を鳴らしながらオトギから間合いを取り、両手に持つ剣を再び強く握り、迷いを振り切るかのように頭を左右に振る。

「……は、情けねェ。もう少し楽しめると思ってたが」

 酷く冷たい声でそう言い放ち、オトギは瞬時に朔太郎の目の前まで距離を詰める。
 朔太郎は反応が遅れ、気が付いた時には既にオトギが剣を高々と上にあげ、まさに振り降ろそうとしている時だった。
 朔太郎はとっさに剣を受け止めようと右手に持つ剣で構えるが、その剣は振り降ろされたオトギの剣により弾かれ、地面へと勢い良く叩き落された。
 無意識に地面に落ちた剣の方に視線を向けてしまい、その隙にオトギは朔太郎の腹部に向けて渾身の蹴りを放つ。
 朔太郎はそのまま直撃を食らい、遥か後方へと吹き飛ばされ、受身も取れずにそのまま地面へと倒れる。

「……チッ、まだ完全に慣れた訳でもねェか」

 蹴りが甘かったな、と首をコキッと鳴らしながら倒れた朔太郎の方を見やる。
 咳込みながらも身体を起こし、悠々と立っているオトギの方を睨みつけながら、朔太郎は次の手を考えていた。

 元より、瞬発力と力で敵の懐に入り込む戦い方のオトギと、己の柔軟さを活かして間合いを取りながら戦う朔太郎とでは、戦闘スタイルはまるで違う。
 間合いさえ取ることが出来れば朔太郎にも勝機はあるが、オトギの戦法がそれをさせてくれない。
 オトギの視力が著しく低下しているなら、朔太郎の異能——自分の足音や気配を消すことでオトギに勝てるかもしれない。
 だが、オトギの戦い方は視力が低下する以前と変わらない。まるで視力が戻っているような——否、目ではない何かを頼りにして動いているような。目に頼らない分、動きが研ぎ澄まされているように伺える。

「……さっきので終わりじゃねェだろ、朔。テメェの光は消えてねェ」

 オトギは剣を軽く宙へと投げ、またその柄を掴む。
 朔太郎も先程の衝撃が残った痛む身体をふらつかせながら、ゆっくりと立ち上がった。左手に持つ片方の剣をオトギの方へと向け、ゆら、と小さく揺らす。

「さァ、第二ラウンドといこうか……楽しませろよ」
「楽しむ前に、終わらせる……!」

 そう言って、朔太郎は地を蹴って走り出した。と同時に、朔太郎は息を止め、自身の異能である【無音素行】を使った。朔太郎の足音が止み、気配がオトギの前から消える。
 オトギの動きが止まった。恐らく朔太郎の気配が消えたのを感知したのだろう。朔太郎はその隙を勝機とし、オトギの懐に入るとしゃがみ込んだ勢いを利用して剣先を下から上へ、身体を起こしながらオトギの胸元へと一撃を放った——はずだった。

 オトギは瞬間的に身体を左へとずらし、剣先は胸元ではなく、オトギの頬から右目へと裂いていった。
 まさか避けられるとは思っていなかった朔太郎は、異能を解いてまたオトギと間合いをあけ、距離を取る。
 オトギは裂かれた頬と右目を押さえながら、身体をよろめかせた。

「……っ、ククク……やっぱ異能を使ってきたな、朔よォ」

 オトギは自分の傷口から手を離し、血で赤く染まった顔で不気味に笑う。
 朔太郎は恐れを感じた。自分の異能を使うタイミングを見破られていた事もそうだが——何故、笑っていられるのか。

「その色……あァそうか、びびってんのか」

 そりゃそうだよなァ、とオトギはとめどなく流れる自身の血を気にすることなく、朔太郎の方へとゆっくりと歩き出す。

「確かに今の俺は視界が歪んでる。お前の顔だってもうボンヤリと色が分かる程度だ。……だがなァ、今のお前の姿、感情、それが俺にはちゃァんと見えてんだ。何でだろうなァ?」

 ククク、とオトギはまた笑う。
 朔太郎の目の前まで近付き、血で汚れた手で、朔太郎の頬に触れ、指を朔太郎の身体へ滑らせる。

「お前の顔、首……んでもって胸元。お前の光は分かりやすくて良いなァ。お前が何処にいるのかがすぐ分かる」

 朔太郎は得体の知れない恐怖に身体を強張らせる。今のオトギは隙だらけだーこのまま剣をオトギに突き立てて、命を奪うことは容易いはず。

 ——その筈なのに、オトギを纏う何かが、朔太郎の動きを止めている。

 する、と朔太郎の身体から手を離したオトギに、朔太郎は声を振り絞った。

「オトギ……お前は何で、軍に入った……?」
「あ?何だァいきなり」
「街の人を守る、自分の守りたい物を守る……そう言っただろう」
「んなこと言ったっけなァ」
「なら、アリョーシャは……!」

 "アリョーシャ"という名に、オトギは目を見開く。構わずに朔太郎は言葉を続けた。

「お前が軍を捨て、永久機関へと足を向けるなら、私には止める資格は無い。……だがあの子は、アリョーシャの事はどうするつもりだ!」
「……テメェに関係ねェだろうが」
「あぁ、関係ない。だが、あの子にはお前が必要なのは分かっているだろ!お前だって……」
「テメェが……ッ、テメェがアリョーシャを語ってんじゃねェよ!!!」

 狂気にも似たオトギの咆哮が木霊する。
 表情が変わる。歪む。
 先程までの笑みが瞬時に薄れ、また暗く禍々しい闇ががオトギの周りをぐるぐると回り始める。

 オトギは狂気を纏ったまま剣の柄を固く握りしめ、朔太郎に向けて身体を捻る。この至近距離ではいくら反射神経が鋭くても逃げられない。
 同時に朔太郎も剣をオトギに狙いを定めて腕を引いた。





 ——二人が繰り出した剣は、ほぼ同時に双方の身体を突き刺した。
 オトギの右横腹に突き立てられた剣は、持ち主の力を失い、ズル、と血で染まった刀身を鈍く輝かせながら、地面へと力なく落ちていく。オトギは痛みと傷口からくる熱さに顔を歪めた。

 対して、朔太郎に突き立てられた剣先は、朔太郎の胸元へと深々と突き刺さっていた。
 朔太郎から声にならない呻き声が漏れる、と同時に、突き刺された肺は既に機能を失い、息の代わりにと逆流した赤い液体が、口元から吐き出される。
 身体の力が、徐々に抜けていく。
 意識が朦朧とする中で、朔太郎は霞み行く目の焦点をオトギへと合わせ、力の入らない腕で自身に突き刺さっている剣を握りしめた。

「……ッ、や、っぱり、お前にゃ……敵わん、の……」

 掠れた声を振り絞り、朔太郎は力なく笑う。
 そして自身に突き刺さった剣をゆっくりと引き抜き、身体を支える物を無くした朔太郎は地面へと倒れていった。

 オトギには、一連の動作がまるでスローモーションのように見えていた。

 俺は、今何をした?
 朔が目の前で倒れているのは何故?
 何の為に朔と戦った?

 俺 は 何 故——

「——、朔ッッ!!!」

 自身の傷を省みずに、オトギは握っていた剣をその場に投げ捨て、しゃがみこんで朔太郎を抱き抱える。
 既に息も絶え絶えな朔太郎は、既に意識も無い。傷口から絶え間なく流れる生暖かい血液が。オトギの腕ごと紅く染められていく。

「…何、やってんだよ……俺はっ!!」

 頭が混乱する。
 目の前で倒れている男は、自分の後輩で、仲間で——紛れもない、自分のかけがえの無い友であった筈なのに。
 自分の奥底で黒い塊がそれを否定した。それがこの有り様だ。
 紛れもなく、自分が仕出かした惨状なのだ。

「馬鹿野郎、死んでんじゃねェよ、朔!!」

 身勝手な言い分にも程がある。それはオトギ自身が一番理解していた。
 オトギは地面へ朔太郎を寝かせると、両手で傷口を覆い目を閉じた。同時に、オトギの掌から淡く蒼い光が溢れ出す。
 これこそがオトギが生まれながらにして持っている異能【affection sacrifice】。
 オトギの放つ淡い光と共に、朔太郎の傷口が内側から徐々に塞がってゆき、止めどなく流れていた血も止まっていった。

 やがて淡い光は止み、オトギはゆっくりと閉じていた目蓋を開ける。

「……はは、俺もいよいよ終わりだな……」

 オトギから薄い笑みが溢れた。
 先程までぼんやりと見えていたはずの視界が完全に色褪せており、うっすらと光を認識出来る程度までに視力が落ちている。
 大切な親友の姿すら、もう目視する事は叶わなくなってしまった。……これこそが、オトギの異能の代償の一つである。

 耳を済ませば、朔太郎の方から微かに呼吸が聞こえる。この様子だと、もう死に至る心配は無くなっただろう。
 ——否、そうであって欲しいとオトギは望む。

「……なァ、朔……、俺は……」

 お前に何か与えてやれていただろうか。

 お前の悩みに、少しでも力になれていただろうか。

 お前が笑える場所を、俺は作れていただろうか。

 お前の——友として、きちんと隣を歩けていただろうか。

「……はっ、我ながら女々しいモンだぜ」

 そろそろ此処を離れなければ。
 まだ軍本部に居残っている誰かがやって来るかもしれない。
 横腹の傷を押さえながら、オトギはゆっくりと立ち上がる。
 予想以上に足元がふらついてしまう。どうやら自分もそう長くは持たないらしい。
 
「……アリョーシャと……アイツらの事、頼むわ」








————————————

まさかの後編へ続きます。
アリョーシャちゃんのお名前、お借りしました。




 

Au revoir―前編







 オトギの異変に気がついたのは、日が傾き始めていた夕方の事だった。
 直接的部下であるスプモニーとバイセン等を率いて、小隊長のオトギは街の巡回へと向かったはずだった。
 朔太郎とガラは別の任務があった為に同行はしていなかった――同行出来ていれば、もっと早くに気付けたかもしれない。

 任務から軍基地へと帰還した時には、既にそこにオトギの姿は無かった。
 スプモニーに事情を聞けば、報告書を自分に預けて先に帰ってしまったのだと言う。


 ――その時点で一つの違和感が生まれた。

 今まで任務後に部下を置いて先に帰る事が、あの男にはあっただろうか。人一倍後輩への面倒見のよいお人好しが。
 しかし、オトギが先に帰ってしまった以上、報告書をまとめて提出するのは、補佐役である朔太郎の仕事場である。スプモニーから報告書を受け取り、その場は解散とした。





 粗方報告書もまとめ終わった頃、ふとオトギの様子が気になった。
 軍に入って以来、長年付き合って来た相棒のような存在のあの男は、どうも自分を犠牲にするような節がある。
 どう見ても善人とは思えない悪態っぷりとぶっきらぼうな口調ながらに、他人の悩みをさも自分の事のように背負い込み、一緒に悩むような男だった。
 朔太郎もそんなオトギの人柄に救われ、今こうして軍人としての毎日を送れている訳だが。

 あの男のお人好しの成れの果てが、オトギが監視役を務めている軍が抱えるゴッドチャイルドの一人――アリョーシャの件である。
 オトギほどでは無いにせよ、朔太郎もオトギに連れられて何度もあの幼いアリョーシャとは顔を合わせている。が、オトギとアリョーシャは、まるで親子のような、はたまた年の離れた兄妹のような二人だ。
 朔太郎もそれなりにアリョーシャの事は可愛く思ってはいるが、オトギのそれはまた別物のように見受けられる。
 監視役としての責務故か、それとも――。

「……オイラが考えても仕方の無い事じゃの」

 誰に言うでもなく自分に呟いた後、自分も帰宅するべく軍本部を出る。
 と、門の前に見慣れた人物――オトギの姿があった。
 そろそろ日も沈み、空も赤から黒に染まり始めているという時間帯。帰路に着く人間こそいるものの、本部の方に出向く人間は少ない。にも関わらず、オトギは少々俯きながら此方の方へと向かって来ている。
 先に帰った筈では、と不思議に思った朔太郎は、オトギの元へと駆け寄った。

「オトギ、何かあったんか?こんな時間に」

 朔太郎が声を掛けると、オトギの足がピタリと止まる。

「……朔か」

 オトギはゆっくりと顔を上げ、朔太郎の方へと視線を向けた。
 だが、その視線が朔太郎の視線と噛み合わない。それだけでなく――目の焦点すらも、合っていなかった。
 いつも着用していた眼鏡も掛けておらず、朝に見た時よりも大分憔悴したように見えるオトギに、朔太郎はある合点がいった。

「お前……異能、使ったんか……?」

 朔太郎の問いに、オトギは何も答えない。ただ噛み合わない視線を此方に向けたまま、黙っている。
 その様子を肯定ととった朔太郎は、途端に声を荒げ出した。

「使えば自分の状態が悪くなるのは分かっとったじゃろ!どうして使ったんじゃ!」

 朔太郎が把握している限りでは、オトギの異能は他人の怪我の出血を止め、傷口を塞ぐという物である。しかし、その対価として、異能を使う毎に使用者の視力を蝕んでいく――つまり、オトギは異能を使う毎に視力を失っているのである。
 朝の様子に比べて明らかに目の焦点が合っていない今の様子を見るに、巡回途中に誰かに異能を使ったとしか思えない。

 朔太郎の声にオトギは眉を潜め、ようやくゆっくりと口を開く。

「俺が異能を使おうが、お前に関係あンのかよ」
「その目でこれからどうするつもりじゃ」
「関係ねェつったろうが」
「関係ないことがあるか!お前は、」
「くどい!!」

 オトギは咆哮し、腰に提げていた剣鞘から剣を抜き、朔太郎の首元へと向ける。

「心配してくれって誰が頼んだ、余計な世話焼いてンじゃねェよ!」

 朔太郎は動きを止め、戸惑いの表情をオトギに向けた。
 ――以前、オトギの代わりに様子を見に行った時分に、アリョーシャに教えて貰った事がある。
 光にも色がある。人間は見えない部分で、何かしら光を放っているのだと。目には見えなくても、感じることが出来るのだと。
漠然とした言葉に、その時の朔太郎には理解しかねる言葉達だった。

 だが、今なら分かる。
 今オトギが纏っている光は、普段光を意識したことがない朔太郎でも感じることが出来る――暗く、淀んだ闇の光だ。

「なァ、教えてやろうか。お前、目障りなんだよ」

 オトギはゆっくり口角を上げ、弧を描く。
 背筋が凍るような、酷く、不気味な笑みを。

「俺を親友とでも思ってたか?信用でもしてたか?ならお笑い草だ。俺は微塵にもお前の事を好いちゃいねェ」

 途端にまた険しい表情となり、黒い闇がオトギの周りを取り巻く。

「うぜェんだよ……お前の存在が、頭ン中でゴチャゴチャしてやがる。テメェは邪魔なんだ、朔!!」

 言葉と共にオトギと朔太郎の視線がかち合うと同時に、朔太郎の首元に向けられていた剣先が目の前で振るわれた。
 朔太郎は咄嗟に片足を後ろに引き、オトギの剣筋から身体を逸らす。

「アリョーシャを連れ出して永久機関への手土産にしてやろうかと思ったが、それも止めだ」

 オトギは二、三歩足を後ろへと滑らせると、再び剣先を朔太郎の方へと向ける。

「剣を抜け」
「……………」
「テメェの首で我慢してやるんだ、ありがたく思え」
「……本気、なんか」

 沈黙を守っていた朔太郎が、確かめるようにオトギに言葉を紡ぐ。
 朔太郎の言葉に、オトギはクク、とかみ殺したように笑う。朔太郎の言葉を馬鹿にしたかのような態度で。

「昔に俺は言ったんだよなァ、『お前に嘘は付かねェ』ってよ。親友名乗るぐらいなら、その言葉信じとけよ。冥土までな」
「……そうか」

 朔太郎は目を閉じ、腰元に提げていた二本の剣を両手に取った。
 この男は、既に自分の知っている『楠宮オトギ』という男ではない。

 過去にこの男が朔太郎に向けた言葉を信じるならば、今こうしてオトギからの言葉も全て真実なのだろう。

 ――最初から、この男を友と思っていたのは、自分だけだったのだ。

 そう納得してしまうと、今までの自分が酷く滑稽に感じる。今までのオトギと共に行動してきた過去は、全て喜劇。自分はオトギの手の上で踊り続けていた道化に過ぎなかったのだと。
 そう思わざるを得なかった。

 朔太郎から、自嘲の笑いがこぼれる。

「……お前の事は、無二の友だと思っていた」

 朔太郎は閉じていた目を開き、オトギの姿を見据える。先ほどとは違う、敵意に満ちた目で。
 それを感じ取ったオトギは、喉を鳴らして笑う。

「ククク、良い感じになってきたじゃねェか。そのまま殺すのは俺だって面白くねェ。……終わりにしようぜ、朔」
「……あぁ」






――――――――――――――

後編に続きます。
ガラさん、スプモニーさん、バイセンさん、アリョーシャちゃん
お名前だけお借りしました。


うちの子落書き。3



TLに上げた物やざくざく描いた落書きをちょこちょこ載せていく。
Last up→10/21






ハロウィンのアロウはまぁこんな感じかなぁと。
10月の終わりで寒くないんかよって思いましたが、まぁアロウは頑丈だから大丈夫よね、ね。




朔とオトギ。
多分レダ事件の手前ぐらいじゃないかしら。オトギも眼鏡かけてませんし。
親友だった過去。
今では考えられませんね。




過去アイコン並びに朔太郎botのアイコン。
やっと落ち着いて描けるようになってきたものの、ますます幼くなってきてるような。




朔の私服イメージ。色塗って誤魔化しておけばよかったと思うぐらいにはださい。
一応下はスキニー履いてますね。ピッタリなやつ。




アナログ落書きオトギ。
多分うちのパンドラっ子で一番血が似合うのはこの男。






オトギ1P漫画。
記憶と感情がごちゃごちゃして、イライラしている事が多い今のオトギ。
たまに昔を思い出しては、こんな感じになっているはず。

ある意味死に場所を探してたりしてね。



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